良質なきのこ栽培へのこだわりと想いを届けたい

豊平地区組合員

嶋川 正洋さん

札幌という消費者との距離が近い農業だからこそ、生産者の想いを直に届けることができる。豊かな自然環境に包まれながら『きよたけ』ブランドを確立し、作り手ならではのメッセージを届ける生産者を追いかけた。

有明の名水が育む「きのこ」

白旗山の麓に位置する清田区有明。自然が生み出す美味しい水と言えば「有明の名水」を思い浮かべる方も多いのではないだろうか。この地区一帯は「支笏火山噴出物層」という火山灰地で、長い年月を経て磨かれた水が湧く名水地としても有名である。この大地の恵みとも言える名水を使用してきのこを栽培しているのが、嶋川正洋さんが経営する「清田しいたけファーム」だ。

清田しいたけファームでは、『清茸』のブランド名で、生しいたけや生きくらげを生産し、施設内の直売所やオンラインショップを中心に、「きよたマルシェ&きよフェス」での軽トラ市、とれたてっこ生産者直売所などで販売している。

有明の名水をふんだんに与えられて育つしいたけは、肉厚で歯ごたえが良く、濃厚な味は一度食べたらやみつきになると評判だ。「地下100mまで掘った井戸から水を汲み上げて使っています。この水はカルシウムの含有量が多めで、それが一番の美味しさの素です。またカルシウムがきのこの表面を覆う役割を果たしているのか、他の生しいたけと比べて日持ちが良いのが特徴ですね」

重さが均等になるように手作業での調整。

栽培方法を模索し安定した生産を実現

池端さんの祖父は乳牛の繁殖農家だったが、乳牛の素牛は価格の乱高下が激しく安定した経営が難しいと判断し、肉牛の繁殖農家へと舵を切った。現在は母牛12人と素牛として出荷する子牛9人を、池端さん一人で管理・肥育している。「今いる子牛の内2人は、昨年末に母牛が産気づいて生まれた子牛たち。破水したら夜通し休まずに様子を見守る必要があるので、牛舎で年を越すのも珍しくないよ。」

繁殖経営では発情発見から種付け、出産支援など、求められる技術も多い上、生まれた子牛も皆が元気に大きくなるとは限らない大変さがあると話してくれた。「子牛を育てるのが一番大変。最初の3ヶ月までが勝負なので、つきっきりで看病したりミルクを飲ませたり。体調にこまめに気を配りながら9人の子牛達が元気に成長してもらえるよう、いつも考えながら接しています。」

池端さんは飼育している牛を数える時に「頭」と言わず「人」と言う。その言葉からは牛達に対する愛情と責任が感じられた。

有明の名水で育った生きくらげ。
傷がつかないように丁寧に収穫。

活路を見出す柔軟な思考と挑戦

嶋川さんときのこ生産の出会いは、嶋川さんの父親が経営する電気関係の会社で行なわれていた、しいたけの原木栽培を事業化してはどうかと提案を受けたことである。

きのこの栽培方法には、大きく分けて原木栽培と菌床栽培がある。嶋川さんは安定した品質と生産量が期待できる菌床栽培に興味を持ち、白老で菌床栽培を行なう経営者を何度も訪れて学んだ。そして、2012年にハウス2棟で生産を開始した。

一般的な菌床栽培は菌床の状態に合わせ、温度・湿度・明るさなどを考慮し、育てる必要があるが、嶋川さんは全ての菌床を1棟の専用培養室に置き、ハウス全体を徹底して管理している。最適な環境下で90日間眠らせた後、菌床を発生棟に移し、芽作り・芽出しを行なう。

この独自の栽培方法により、品質の良い肉厚なしいたけを安定して収穫する事に成功し、質にも量にも拘った『清茸』ブランドを確立した。そして今では、栽培用ハウス5棟・菌床製造棟1棟で年間100トン超のきのこを栽培する。しいたけときくらげを9:1の割合で生産し、36名の従業員を抱えるまでに成長した。

しかし、規模拡大や大量生産を目指しているわけではないと嶋川さんは話す。

「『清茸』を美味しいと言ってくれる皆さんの期待に応えられるよう、質と量の均衡を上手く図りながら、知名度を更に向上させるのが今の目標です。大量生産だけに拘ると、お客さんとの距離が遠くなる気がして…。一にも二にも『清茸』ブランドに相応しい良質なきのこを栽培することを心がけています」

従業員の連携による詰め作業。
清田しいたけファームの心臓部である培養室。

消費者とのつながりが高品質を後押し

嶋川さんは地域のイベントにも積極的に参加する。その理由はお客さんと対面で話すことが楽しいから、と教えてくれた。

「直接お客さんと接して、しいたけの美味しい食べ方について話したり、味について忌憚のない意見を聞かせてもらったり…。消費者と生産者の距離が近いから、新鮮なきのこを皆さんに届けることができる。そして皆さんの想いをチカラに、良質なきのこを生産し続ける。それが何よりも私が大事にしていることです」

生産者として食べ方だけでなく、生産までのストーリーを伝えたい。そんな揺るぎない想いを強く感じた。

『清茸』を通じて生産者と消費者、その土地で採れた自然の恵みが繋がり『清茸』ファンの輪がより一層広がっていく…そんな未来が想像できた。

肉厚で弾力のあるしいたけ。