心を支えるかけがえのない一輪になることを願ってみんなが笑顔になりますように

石狩花畔地区組合員

大村 喜輝さん

日本には、感謝や愛情を表現するために「花」を贈る文化がある。
誕生日・入学式・卒業式・母の日と様々であるが、時には言葉以上に想いを伝えることができる。

帰郷して花農家の2代目に

例年よりも多くの雪が残る3月、石狩市生振にある『北の花工房 大村花き園』を訪ねると、建ち並ぶビニールハウスの中は一足早い春の気配に包まれていた。

ハウスに足を踏み入れると、桃色・白色・緑色など綺麗な色彩のカーネーションが花開き、言葉では言いつくせない美がそこにあった。そして、何故だか見ているだけで自然と顔がほころんでしまう、何とも言えぬ幸福感を感じた。

「花には心を癒す効果がありますよね。花を取り入れる事で、みなさんの生活が明るく潤いのあるものになってくれると育てた甲斐があります。」
そう語ってくれたのが今回お話を伺った大村喜輝さん。

父親の代から花き生産を始め、喜輝さんは長野の大学を卒業後、1年間、長野の花き園で研修し帰郷。昨年経営移譲を受け、大村花き園の代表として生産に携わっている。

父親の喜紀さんはかつて篠路町福移にあった余熱利用施設園芸団地で花きの他、きゅうりやメロンを栽培していたが、団地の解散を受けて生振に拠点を移すこととなった。当時は石狩湾新港建設により米作からの転作が奨励されており、喜紀さんもここ生振で花きの生産に取り組む運びとなった。

美しいと思える花を消費者に

札幌市のライラック、当別町のユリ、新篠津村のアルストロメリアなど、石狩管内は北海道でも有数の花き生産地であり、大村花き園は北海道でも古くからカーネーションを栽培する農家のひとつだ。

カーネーションだけでも約50品目、ほかにもマトリカリアやトルコキキョウなど紹介しきれないほど多彩な花々を生産し、札幌花き地方卸売市場を中心に本州などにも出荷している。中でもソネット・ブラックジャック(カーネーションとナデシコの交配種)という花は、石狩管内で大村さんの他に育てている生産者はほぼおらず、希少性の高い品種で、もし花屋さんで見かける事があれば「大村さんが育てた花」と断言しても良いくらいである。
「毎年同じように栽培していても天候不順や病虫害により、なかなか思う通りにはいかないですが、『大村花き園の花なら申し分ない』と市場や消費者の皆さまに言ってもらえるよう、茎が太く発色が良い、日持ちのする花を育てることを目標に日々努力しています。」

真っ直ぐにきれいに咲くゴーレム。
太陽の光を浴びて育つプラテリア。
多くの種類の花を管理。

花が人の心に与えるもの

花を贈る日と言えば「母の日」が真っ先に思い浮かぶが、花には年間5回の高需要期があるのだそうだ。お正月・お盆・春と秋のお彼岸、そして母の日である。

繁忙期には大村さん家族に加えパート従業員12〜13名がフル稼働。全部で23棟あるビニールハウスでカーネーションだけでも年間60万本以上を生産・出荷する。花は需要がすべてであり、需要に対応した栽培計画が花づくりの基本だと大村さんは話す。「花は野菜や肉などと違って必ずしも生きる上で必要なモノでは無いですが、季節や人生の節目には欠かせない、彩りを与えてくれるものです。みなさんの大事な瞬間に私の育てた花々が立ち会えることが、なにより嬉しいです。」

大村花き園を訪れたのは、ちょうど札幌市内の中学校で卒業式が執り行なわれた日だった。大村さんを始めとする花き生産者が心を込めて育てた花々が、祝福に彩りを添え、卒業生たちのこれからの歩みを鮮やかに照らし、感謝と勇気を与えてくれたに違いない。

そして特別じゃない普通の日だって、日々伝えきれない「ありがとう」を花とともに伝えたい。そんな気持ちにさせてくれた。

採花作業をする母の聖子さん。
1本1本丁寧に選花作業。
先代から続く大村花き園の出荷箱。
これから消費者のもとへ届くトニックゴーレム。