一頭一頭に想いを込めて育てる責任。育てた愛情

石狩花畔地区組合員

池端 優さん

石狩に変わった経歴を持つ組合員がいらっしゃるとの話しを聞き、訪れたのは地物市場とれのさとに程近い石狩市樽川。ここで「ファーム池端」を経営している池端優さんにお会いしたのは、まもなく大寒を迎えようかという寒い日だった。

農家と音楽家の二刀流

自宅内の仕事場に招き入れていただくと、すぐに目に飛び込んできたのは複数のモニターとパソコン、そして改造した机から見えるピアノの鍵盤。そう、池端さんは『農家』と『音楽家』の二刀流という、正に異色の生産者なのである。

肉牛の繁殖農家と畑作農家を営む傍ら、精力的に音楽活動を行ないアーティストに自ら作った曲を提供している他、インターネットを通じて曲を公開・販売している。「『音楽家』として取り組みたいことはたくさんあるのですが…『農家』とのバランスを取るのが難しいですね。共に私にとって大事なモノなので出来る範囲で両立できればと思っています。」

農家としての池端さんは、音大を卒業後、2009年に素牛を育て出荷する繁殖牧場を祖父から経営移譲を受けて就農した。

肉牛の生産農家は、大まかに母牛に子牛を生ませ、その子牛を育てて市場に出荷する「繁殖農家」と、その子牛を大きく育てる「肥育農家」の2種類に分かれる。

牛達を育てる技術と深い愛

池端さんの祖父は乳牛の繁殖農家だったが、乳牛の素牛は価格の乱高下が激しく安定した経営が難しいと判断し、肉牛の繁殖農家へと舵を切った。現在は母牛12人と素牛として出荷する子牛9人を、池端さん一人で管理・肥育している。「今いる子牛の内2人は、昨年末に母牛が産気づいて生まれた子牛たち。破水したら夜通し休まずに様子を見守る必要があるので、牛舎で年を越すのも珍しくないよ。」

繁殖経営では発情発見から種付け、出産支援など、求められる技術も多い上、生まれた子牛も皆が元気に大きくなるとは限らない大変さがあると話してくれた。「子牛を育てるのが一番大変。最初の3ヶ月までが勝負なので、つきっきりで看病したりミルクを飲ませたり。体調にこまめに気を配りながら9人の子牛達が元気に成長してもらえるよう、いつも考えながら接しています。」

池端さんは飼育している牛を数える時に「頭」と言わず「人」と言う。その言葉からは牛達に対する愛情と責任が感じられた。

以前牛舎として使用していた納屋。
自作によるサツマイモの熟成室。

活路を見出す柔軟な思考と挑戦

ファーム池端では他にも、素牛の生産から生まれる自家製堆肥を活用した循環型農業を実践している。この堆肥を使用した畑からできるアスパラガスは地物市場とれのさとで販売しており、旬の時期には陳列するやいなや、あっという間に完売となる程の大人気野菜である。栄養豊富な自家製堆肥をたっぷり与えているせいか、20年近く前に植えた苗から今でもアスパラガスが収穫できるそう。

また、一時期はにんにくの生産も行なっていたが、アスパラガスの収穫時期と重なるため新たに始めたのがサツマイモの栽培。「紅はるか」という品種を中心に生産しているが、このサツマイモはねっとりとした食感と糖度の高さが特徴で、じっくり加熱して作る焼き芋は、まるで上質なスイーツを食べているかのような味わいである。更にはこの紅はるかを用いた干し芋も独学で製品化し販売している。一枚一枚の厚さにこだわることで、紅はるかの特徴である、ねっとりとした食べ応えが増す。黄金色で、見た目にも美味しい干し芋と絶品焼き芋は、とれのさとで絶賛発売中なので、見かけた際には是非手に取ってご賞味いただきたい。

「自然にはあらがわない。失ってもそれ以上にたくさん作ればいいだけ。」
最近問題となっている農作物への鳥獣被害について池端さんに聞いた時の言葉である。

牛に畑に音楽に、様々な事に挑戦し続ける前向きな姿勢は、この考え方から生まれるのだと感銘を受けた。

素牛の生産から生まれる自家製堆肥。
13歳となると迫力ある母牛に。
毎日のように、温度と湿度が管理されたサツマイモ。
池端農場オリジナルのやきいも。