真っすぐな想いを貫く。繋がりの中から生まれる、農業のカタチ。

厚別地区組合員

小林一裕さん

25年前、JAさっぽろ広報誌「虹の大樹」第1号の組合員紹介ページで「うちの農業守っていきます!」と熱く語ってくれた小林一裕さんを「新生JAさっぽろ」として初の発行となる今号で再び追いかける。

7種類のレタス

降り続く雨の合間を縫って訪れた小林農園。何面もある畑には育ったレタスが鮮やかな翠色の絨毯のように広がっていた。一つひとつのレタスが色濃いコントラストを生み、美しいとすら感じる。「生命力を纏った畑」そんな言葉が当てはまるほど畑はエネルギーに溢れている。
 小林農園では7種類のレタスを栽培。リーフレタス、サニーレタス、ロメインレタスはもとより、レッドコス、フリルアイス、ピンクロッサなど珍しい品種の生産にも注力しており、レタスは小林農園の名産品と言っても過言ではない。この日は5名程で収穫作業を行なっていたが、驚くのはその連携とレタスの切り口を一つずつ丁寧に拭く作業。連帯感と手間暇が小林農園のレタスの鮮度を保つ要因の一つだ。レタス以外にも春菊、アスパラガス、キャベツ、ブロッコリーなど多品目の野菜を生産し、道内外へ出荷する他、「とれたてっこ厚別」や自ら運営する「小林農園やさい直売所」で販売している。

周囲の励ましが力に

「昨日もスコールみたいなすごい雨だったね。色々な環境変化がいっぺんに来ている感じがする。ここ最近、経験したことがない様なことが起きるから大変だよ。」異常気象という言葉を毎年のように耳にする昨今。特に今年の記録的猛暑による影響は計り知れなく、高温障害など自然相手ゆえの厳しさと困難に直面した。「長年農業をやってきた中でこんなにも苦しい年はないよ。春菊の畑も9月はほとんど駄目にしてしまったり…つらいと弱音を吐きたくなることが何度もあった。」

そんな中、小林さんを後押ししてくれたのはご家族と10名を超えるパートさんだったと小林さんは話す。
「やっぱり家族の支えは大きいよ。息子も手伝ってくれるし、直売所も家族が運営してくれる。異常気象が続いて肩を落としていた時は、『社長、まだまだこれから。がんばるよ。』ってパートさんが応援してくれたのが本当に嬉しかったし励みになったよ。」

繋がりが進化を生む

25年前と変わったのは気候だけではない。IT機器の発達により情報の収集や共有が容易になり、リアルタイムで状況の改善が図れるようになったのは大きい。「長雨のせいで病気の発生が多くてね。例年以上に防除が必要になっているけど、他のレタス農家や農業普及センターとの連携のおかげで効率よく対応できる。昔は生産者同士、営農に関する情報は『極秘』みたいな雰囲気があったけど、今はそんな時代じゃない。地区を越えた繋がりで石狩の組合員さんとも協力できればいいね。」
25年前と変わらないものもある。それは常に新しいことを取り入れる小林さんの姿勢。一例がGAP(ギャップ)認証の取得だ。小林さんは消費者からの安心・安全な農作物を求める声が大きくなっている状況に対応すべく率先して取得した。この先駆的な取り組みが功を奏し野菜の出荷先が拡大、東京オリンピック2020の選手村で自社農園の野菜が提供されるまでになった。
新しい事も昔ながらの事も大切にしてバランスよく取り組む姿には、「畑の技術者」という表現がぴったりくる。「今はウェブで調べれば何でも分かるようになったけど、やっぱり『知っている人』と直に話すのにはかなわない。その人の経験とか想いとか…肌感覚って言うのかな。人との繋がりを大事にしていきたいね。」
25年前と変わらず農業への滾る想いを語ってくれる小林さんは、これからも人と農業を紡ぎ、農業を守り続けていくに違いない。

  • GAPとは、農業生産の各工程の実施・記録・点検・評価を行なうことによる持続的な改善活動のこと