リスク分散と新たな挑戦夫婦二人で持続可能な農業を。

直売所出荷者協議会会長地区組合員

遊佐 宏文さん

「『とれのさと』や『とれたてっこ』を通じて札幌や石狩の野菜を多くの方に知っていただいて、食べてもらえたら嬉しいですね。」直売所出荷者協議会会長として、そう語ってくれた遊佐宏文さんは就農8年目にして驚くほど多種類の野菜を生産する。そのアイデアとバイタリティの源を取材した。

調べ、学び、実践
挑戦は力なり

石狩市花畔地区にある「ユウサン・ファーム」。「地物市場とれのさと」の近く、周辺に住宅が立ち並ぶ中でも自然を維持してきたこの地区に遊佐さんを訪ねると、長さ100メートルはありそうな大きなビニールハウスが目に飛び込んできた。
 笑顔で迎え入れてくれた遊佐さんは、長年陸上自衛官として勤務し退官後、平成27年にここ花畔で新規就農した。取材時はちょうど下仁田ネギの収穫を控えた頃。昨年、本場群馬県へ単身研修に行き生産方法を学び、今年初めて栽培に取り組んだ。
「毎年新しい何かに挑戦することが私の目標。自ら考えて、調べて、学んで、実践して、失敗して、また考えての繰り返し。本場の下仁田ネギにはまだまだかないませんが、是非一度手に取ってもらいたいです。」

9ヵ月かけて育てた下仁田ネギを丁寧に収穫。
ハウス栽培のトレビス。当初は栽培適期が分からず出荷までに4年が経過。
ミニトマトの連作障害を回避するために混植しているニラは周年収穫。

リスク分散と生産性の向上

そんな遊佐さんは現在、約50種もの野菜を生産する。入口から向こう端が見えないくらい長いハウスで、夏季はミニトマト、パプリカ、こどもピーマン、冬季はレタス、ケール、茎ブロッコリー、ターサイ、露地では白かぶ、トウモロコシ、山ワサビなどを生産。「これまで8年間、気候変動の影響を受けつつも、リスク分散が功を奏して農業を続けられています。」
 生産性向上にもこだわる。例えば、自ら調べて知った「省耕起栽培」の実践。これは、ハウス内の圃場を耕す回数を減らす栽培方法で、気温の低い冬季の作物成長期間の短縮に大いに役立つのだそう。北海道大学の元教授から学び実践している。ほかにも、アブラナ科の作物を収穫した後にキク科の作物を植えて連作障害の防止と効率的な栽培の両立を図り、一度収穫した後でも再び育ち繰り返し収穫可能な再生野菜の栽培を行うなど、多くの事に取り組む。また、ハウスの外を防虫ネットで覆い防除回数を減らして低農薬栽培を心がけるといったアイデアも自ら生み出している。

ハウス内でビーツの後作に植えたロメインレタス。

夫婦二人で農業を続ける

野菜作りに心血を注ぐ遊佐さんに夢を聞いた。「一年中、地元の野菜を皆さんに提供する事で、この地域の役に立てればと思っています。人を雇わず妻と二人で通年野菜を出荷する為に少しでも効率的な栽培方法を模索しています。夏季と冬季の収益と毎月の売上高が一定になる野菜を二人で作り続ける夢を叶えるために挑戦を続けます。その前に身体の痛みとの相談がありますけど(笑)」
隣の作業場では奥様が「とれのさと」に出荷する野菜を梱包していた。遊佐さんが農業を始めたことに不安はなかったのか尋ねてみると、「反対する気持ちは勿論あったけれど、綺麗な野菜が収穫できた時の喜びや様々な人たちが手に取ってくれた時の嬉しさ、夫婦で一緒に仕事ができる事の楽しさは代えがたいです。体を使うからご飯が美味しいし(笑)」と幸せそうに苦笑いしながら答えてくれた。
「取材ではいつも、『農業は楽しくないけど面白い』と答えます。自然は必ずしも味方してくれないから、ただ一生懸命やるだけでは報われない。妻には迷惑かけてばかりで申し訳ないし、効率的なやり方を教えてくれる誰かがいる訳でもないので自分で考えるしかない。ただこれが面白い。色々調べて学ぶと、様々な事に挑戦したくなって、試したことがうまくいったら去年の悔しさが今年の喜びに変わる。そしてできた野菜を美味しいと皆さんが食べてくれる。お互いにWIN-WINになれる農業は面白いですね。」
持続可能な二人の農業―これからの日本にマッチする「農業のカタチ」の一つではないだろうか。遊佐さんご夫妻の未来に注目していきたい。

本場下仁田ネの直売所で販売されていたラッピングを思い出しながら袋詰め。
地物市場とれのさと。
壁に出荷者の写真が並ぶ「とれのさと」の店内。