冬の厳しい地吹雪が舞う、石狩市花川。農業と福祉の狭間で揺れながら、違いをまるごと受けとめ辿り着いたのは、「人が育つのを待ち、人とともに成長する」覚悟だった。コムズファームは、人が集い、土に触れ、誰もが自分らしく生きられる“生きる力の原点”となる場所だ。
理想と現実の狭間で見つけた「待つ力」
石狩の肥沃な土壌に根ざすように、木造の温もりが漂う「コムズファーム」が佇んでいる。ここは一級建築士で地域活性化コンサルタントの竹ノ内さんが、自ら設計し、素材を選び抜いて建てた就労継続支援B型事業所だ。
「時間が経つと木が灰色に変わり、壁に渋みが出る。だから、わざと塗装しないんです」と竹ノ内さん。
かつては理論や数字、機能美を重んじる設計の世界で生きてきた。しかし、関西の水耕栽培農場で障がいを持つ人々が一粒の種に注ぐ情熱や、純粋に農作業に打ち込む姿に心を打たれたのだ。「北海道でもこのモデルは根づく」と確信し、2013年にコムズファームを設立した。
しかし、現実は設計図通りには進まなかった。農業と福祉のプロを揃えたものの、最初の数年は試行錯誤の連続となる。成果を求める「農業」と、歩みに寄り添う「福祉」の間に本質的なズレがあった。
昨日100できたことが今日は10しかできないこともある。思うように進まない現実に直面し、悩む日々もあったが、竹ノ内さんは「人が育つのを待つ」という覚悟に辿り着いた。
冬の厳しさと多様な手仕事が生む成長
北海道の冬は農業にとって閉ざされた季節だが、コムズファームのハウスには生命力を纏った青々とした「寒じめほうれん草」が育っている。取材に訪れた日も、利用者と職員が交わす穏やかな会話や、作業の合間にこぼれる笑顔が印象的で、厳しい寒さの中にも、温かな空気が流れていた。
あえて暖房を使わず寒さにさらすことで、ほうれん草は糖分を蓄え、甘みと肉厚な食感が生まれるのだ。厳しさがあるからこそ美味しくなる。その姿は、ここで日々を大切に働く人々と重なる。
「働く人がいる限り、年中働ける場所をつくりたい」という竹ノ内さんの想いは、雪の重みからハウスを守ろうと雪かきに励む、職員と利用者の献身で支えられてきた。
ここでは個人の特性が誰にも代えがたい「能力」として尊重されている。対人関係が苦手な人は黙々と土に向き合い、パッケージ作業でセンスを発揮する人もいる。30種類以上の作物を育てることで多様な作業が生まれ、個性の違いがパズルのピースのように組み合わさっていく。
福祉農業の真骨頂は「たくさんの人による丁寧な手仕事」だ。機械では代替できない一株一株への慈しみ。そんな丹精を込めて育てた野菜が、誰かの「美味しい」という笑顔を生んでいく。この経済活動の確かな手応えが、利用者の自立への誇りを支えている。
地域と繋がる、命の循環と共生の輪
コムズファームの「循環」は出荷だけでなく、育てた野菜は利用者の昼食にも使われる。自分たちの仕事が命を育む実感が、働く喜びと生きる力を結びつけているのだ。対話を重ね、ともに歩む毎日を積み上げ、利用者も職員もたくましく成長し、今や職員9名、利用者32名が活き活きと土に触れている。
「農業は人間のDNAに刻み込まれている。それは生きていく上での原点ですね。福祉農業だからこそ、楽しくなければ意味がないですから」と竹ノ内さんは語る。
月2回の直売会に合わせて開かれるカフェには、利用者の家族や地域の先生、近隣住民が集う。福祉施設の枠を超え、畑を中心に地域コミュニティが育まれている。
作業する本人が楽しいと思わなければ押し付けになる。楽しんだ先に、利用者が次のステップを目指せる意欲が生まれると信じている。
答えのある世界から少し距離を置き、丁寧な手仕事と互いを認め合う温かな眼差し。コムズファームで生まれた「共生の輪」は、静かに波紋を広げる水面のように、石狩の町と私たちの心を優しく潤し続けている。








