石狩川の右岸に広がる、広大な農業地帯の石狩市北生振地区。力強く稲穂を刈るのは、雄一さんが自ら手入れをしている愛用のコンバインだ。JAさっぽろ米麦振興会を牽引する若きリーダーが目標に掲げる「面白いこと」とは
家族で営む広大な田園
あたり一面に水田が広がる北生振地区で、大型コンバインが快調に稲を刈っていく。操縦するのは、合同会社熊倉ファーム代表社員、熊倉雄一さんだ。家族5人で営む熊倉ファームは、家族経営による法人化をしてから8年目となる。経営面積64haのうち、水稲作付は22ha。ブランド米「ゆめぴりか」を9ha、飼料米を約13ha分育てており、石狩地区の米麦センターへの搬入を基本として出荷している。JAに出荷するのは、それが地域農業を活性化することに繋がると信じているからだ。
熊倉家3代目となる雄一さんは、当別高校農業科に通いつつ、農繁期には家の農業を手伝っていた。高校卒業後、すぐに就農し、現在は、実家である熊倉ファームの近くに妻・梨沙さん、6歳の娘・汐音さんと3人で暮らしており、JAさっぽろ米麦振興会の会長を務めながら、より安全・安心な米麦の生産を目指して日々農業に打ち込んでいる。
「人間はタネが好き」
熊倉ファームでは、広大な圃場に育つ稲を家族で協力し、約2週間かけて収穫する。今年は高温傾向にあり、地域全体の収穫時期が平年より早まっている。更に、熊倉ファームでは収量も平年より高くなる見込みだ。
近年の異常気象と農業生産動向に対応するため、作付品目や品種は毎年検討していかなければならない。そんな中、熊倉ファームでは昨今の米需要に応えるため、転作小麦の作付面積の一部を来年から復田し、米の生産増を図る予定だという。家族で話し合って下した決断には、石狩産のお米、とりわけ新米へのこだわりが影響している。
「やっぱり、新米はツヤが違う」と雄一さんは語る。雄一さんが稲を育てる中で強く意識しているのは、高校時代に学んだ「人間はタネが好き」という言葉だ。タネとは穀物のことで、人間の生活に穀物は欠かせないという意味の印象深い教えだ。稲作農家という職業に就いた今、「本当にその通りだ」と日々強く実感しているという。穀物がなければ、人間は生きていけない。とりわけ、お米は日本の主食だ。稲作は日本人の生活に不可欠だという確信があるからこそ、雄一さんはブレることなく稲を育て続ける。
「やるなら今のうち」
2年前に、JAさっぽろとJAいしかりが合併した。雄一さんは、これを転機と捉え、「何か面白いことをやりたい」と力強く語る。雄一さんにとっての「面白いこと」は、「地域活性化」と「食農教育」だ。
地域を活性化するために、雄一さんは以前、石狩市農業総合支援センターによる「石狩塾」という担い手主体の活動組織にて、婚活イベントなども企画した。地域や農産物をPRするために、積極的に取り組みを増やしていきたいと考えている。
昨年度、雄一さんにはJAさっぽろの新入職員農業実習にご協力いただいた。
「札幌の学校から依頼があればぜひ出向いて、JAさっぽろとしての食農教育をしたい」
食農教育を通して、「大変だけど、面白い」という農業そのものの良さを伝えたいと語る雄一さんの目は、希望に満ちてキラキラと輝いていた。
地区の垣根を越えて札幌の生産者とも交流したい。地域に、次世代の農業の担い手を呼び込みたい──雄一さんの意気込みはとどまるところを知らない。その原点にあるのは「石狩産のお米を知ってほしい」という願いだ。「石狩産のお米を食べてほしい」そんな想いから始まった活動は、裾野を広げ、更にたくさんの「面白いこと」に繋がっていく。
「合併して2年。今まで交流のなかった生産者と出会えるチャンスも増えている。このタイミングで守りに入っちゃダメ。やるなら今のうち」
変化を前向きに捉え、自らの考えをカタチにする。雄一さんの「面白いこと」は更に伝播し、地域を元気にしていくことだろう。








